カスタマージャーニー分析の実践方法|効果測定と改善施策の作り方
目次
「カスタマージャーニーマップを作ったけれど、結局どこから手をつければよいかわからない」そんな声を、マーケティング担当者やUXデザイナーからよく耳にします。マップは完成しているのに、改善の優先順位が決まらない。施策の候補は出るのに、何を先に動かすべきかが見えない。この記事では、そのギャップを埋めるための 分析の型 を紹介します。具体的には「観点→兆候→仮説→施策→検証指標」のセットで考えるプロセスを、テンプレートや図表とともに解説します。
マップの作り方や全体像については、先にこちらをご参照ください。
- カスタマージャーニー(全体像・定義と目的)
- カスタマージャーニーマップ(マップの作り方)
カスタマージャーニー分析で何がわかるか
カスタマージャーニーマップを「読む」ことで見えてくるのは、次の4つです。
ボトルネック :顧客がある接点で止まったり離脱したりしている箇所がわかります。アクセスログやCVRなど定量データと照らし合わせると、「感情の谷」が起きている場所と一致することが多いです。※感情の谷について、詳しくは後ほど解説します。
期待と現実のギャップ :顧客が「このページに来れば〇〇がわかる」と期待しているのに、実際にはその情報が見つからない。あるいはサービスの説明と実際の体験がずれていることがわかります。こうしたギャップが不満の温床になります。
部門断絶 :BtoBの文脈では、マーケティング部門が獲得したリードが営業に引き継がれ、さらに契約後はCS(カスタマーサクセス)が対応するという流れの中で、担当部署が変わるたびに顧客体験の質が変わる問題が起きやすいです。BtoCでは、WEBで期待値を高めて来店した顧客が、店頭スタッフやサポート窓口との接点でギャップを感じるケースがあります。
優先度の根拠 :「どこを直すべきか」を感覚ではなくデータと仮説に基づいて決められるようになります。
図表1:分析で見るポイント一覧

分析の前提(データ・仮説・対象の揃え方)
分析を始める前に、「誰の、どのシナリオを見るか」を明確にすることが重要です。対象セグメントと前提条件をあいまいなままにすると、ジャーニー上の問題が「どのユーザーにとっての問題か」がわからなくなります。
対象となる顧客層と前提の確認
- ペルソナ :誰のジャーニーを分析するか(例:BtoB検討者、BtoCのリピーター)
- シナリオ :どのゴールに向かう行動を追うか(例:資料DL→商談、比較検討→初回購入)
- 期間と接点 :どの時間軸とタッチポイントを範囲とするか
使うデータの種類
定量・定性の両方を揃えることで、仮説の精度が上がります。
- 定量 :WEBアクセスログ、CV数、フォームの完了率・離脱率、NPS、問い合わせ件数
- 定性 :ユーザーインタビュー、カスタマーサポートの対応履歴、アンケートの自由記述、行動観察
データ収集の段階では、デスケルメソッドカードの DESKTOP RESEARCH -二次情報-(既存の統計や市場情報の収集)と INTERVIEW & ENQUETE -質問調査-(インタビューやアンケートによる深層心理の把握)が参考になります。
デスケルメソッドカードとは?
デスケルが現場のワークショップで使っている、思考と対話を進めるためのカード集です。リサーチ・発想・合意形成など、プロジェクトの場面ごとに使い分けるツールで、参加者が同じ言葉と手順で議論できるようにします。デスケルメソッドカード一覧はこちら
たとえば、放送文化基金のWEBサイトリニューアルプロジェクトでは、ワークショップとヒアリングを通じて財団の事業への思いを言語化し、散在していた膨大なコンテンツをユーザー視点でアクセスしやすい構成に再構築しています。ブランディング策定まで一体で支援した事例であり、分析の前提となる「何のために、誰に向けて情報を届けるか」を丁寧に揃えることの重要性を示しています。
読み解きの型(感情の谷→摩擦→離脱断絶点)
マップの中で「改善が必要な場所」を見つけるための読み方を解説します。
感情の谷を探す
感情ラインが下がっている箇所を確認します。よくある感情は「不安」「面倒」「不信」の3つです。
- 不安 :「本当にこれで合っているのか」「失敗したらどうなるか」
- 面倒 :「手順が多すぎる」「また同じことを入力しなければならない」
- 不信 :「情報が古い」「スタッフによって言うことが違う」
摩擦の種類を分類する
感情の谷の原因を「摩擦」として言語化します。主な摩擦の種類は以下の通りです。
- 情報不足 :必要な情報がそのページに書かれていない
- 手順の多さ :入力項目・クリック数が多く、完了までが遠い
- 用語の難しさ :業界専門用語がそのまま使われていて意味が通じない
- 期待ズレ :広告や前段のページと実際のコンテンツの内容が乖離している
離脱断絶点を特定する
定量データ(ページの離脱率、フォームの中断率、ログのドロップオフポイント)と、定性データ(インタビューで「ここでやめた」と言われた接点)を照らし合わせます。デスケルメソッドカードの OBSERVATION -行動観察- は、ユーザーが無自覚に行っている行動や、ストレスを感じている瞬間を捉えるのに有効です。
また、表層的な事象の背景にある「なぜ」を掘り下げるには、デスケルメソッドカードの INSIGHT -理由分解- が役立ちます。「離脱率が高い」という事実に対し、「なぜ離脱するのか」を繰り返し問い続けることで、施策に直結する本質的な原因を見つけることができます。
図表2:兆候→原因仮説→施策案の対応表

施策の優先度付け(インパクト×実現性)
分析から複数の改善案が出てきたとき、すべてを同時に動かすことはできません。「どれから手をつけるか」を決めるための優先度付けが必要です。
インパクト×実現性の考え方
デスケルメソッドカードの IMPACT & FEASIBILITY -発想評価- では、アイデアを「効果の大きさ(Impact)」と「実現可能性(Feasibility)」の2軸で評価します。この考え方を施策の優先度付けにも応用できます。
- インパクト :改善によってどの指標がどれくらい動くか(コンバージョン改善、離脱率低下、問い合わせ件数削減など)
- 実現性 :開発・デザイン・オペレーションのリソースを考えたときに、どれくらいの期間と工数で実施できるか
図表3:優先度付けマトリクス(例)

優先度を評価するときは、数値の根拠を揃えましょう。「なんとなく効きそう」ではなく、「このページの離脱率がX%改善すれば、月間CVがY件増加する試算」のように、インパクトを定量的に描けると合意形成がスムーズになります。
経理業務支援SaaSのUI評価・改善提案では、株式会社リコーの経理支援SaaSに対してヒューリスティック評価・認知的ウォークスルーという手法で課題を客観的に数値化し、重み付けを行っています。開発チーム内で優先度が見いだせていなかった状態に対し、第三者の専門家視点で共通指標を作り、報告会を通じてチーム全体の改善の優先順位決定に貢献した事例です。
検証(KPI設計と改善サイクル)
施策を実行したあと、「効いたかどうか」をどう判断するかを決めておくことが、改善サイクルを回し続けるための鍵です。
KPIの考え方(先行指標・遅行指標)
施策のKPIには「先行指標」と「遅行指標」の2種類があります。
- 先行指標 :施策の効果をすぐに確認できる指標。CTAのクリック率、ページ内の特定ボタンのクリック数、フォームの完了率など。
- 遅行指標 :最終的な成果として確認する指標。受注件数、月次売上、NPS、チャーン率など。
先行指標を見ながら施策の方向性を素早く修正し、遅行指標で最終的なビジネス成果を確認するという2段階で評価すると、サイクルが速く回せます。
検証方法の使い分け
- A/Bテスト :ページのデザイン変更、CTAの文言変更など、変数を絞って定量的に比較したい場合
- 定性テスト(ユーザーテスト) :「なぜこの行動をしたか」「どこで迷ったか」を言語化したい場合。数字が動かない原因を探るときにも有効
図表4:施策→KPI→計測方法→頻度のテンプレートの例


AIによるWEB問い合わせ対応の効率化では、LLMを活用した問い合わせ振り分けシステムを導入し、スパムに埋もれていた見込み顧客からの問い合わせをAIが拾い上げる成果を実現しています。試験運用3ヶ月で人と同等の判別精度を達成し、本運用に移行した事例です。
問い合わせ対応の場合には、KPIとして人の判断とAI判断のズレがどの程度あるかを指標とし、改善するサイクルを実行することで実用的なAI運用が期待できます。

また、株式会社リコーの「RICOH Chatbot Service」へのUI/UXデザイン支援では、サービスの目的や機能の解像度を上げることから着手し、チームで的確な議論を行うためのツールを作成して「協働するチーム」としてプロジェクトを推進。ウェブアプリ初心者にも使いやすいUIを実現しています。チーム全体が同じ評価基準を持てるよう働きかけることで、接点ごとの改善が全体の体験品質につながった事例です。
記録と振り返りの習慣
施策を実行したら、「なぜその施策にしたか」「どんな仮説を持っていたか」「結果はどうだったか」を記録として残しましょう。デスケルメソッドカードの LOG -痕跡保存- は、議論のプロセスや決定事項を「思考の足跡」として保存し、学びを組織の資産に変えるためのメソッドです。単なる議事録ではなく、意思決定の背景まで残しておくことで、次のサイクルに活かせる知見になります。
作成手順から改善サイクルまでを一貫して追いたい方は、カスタマージャーニー作成もあわせてご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q 定性と定量、どちらを優先すべきですか?
A. どちらが優先というよりも、役割が異なります。定量データは「どこで問題が起きているか」を示し、定性データは「なぜ問題が起きているか」を教えてくれます。まず定量データで問題箇所を特定し、そこに対して定性調査で原因を掘り下げる、という順番が効果的です。
Q BtoBでのKPI例を教えてください。
A. BtoBでよく使われるKPIの例としては、「資料DLからの商談化率」「商談からの受注率」「商談期間の平均日数」「契約後の継続率(チャーン率)」「NPS」などが挙げられます。ジャーニーの段階によって先行指標と遅行指標を使い分けます。
Q マップは一度作ったら終わりですか?
A. 終わりではありません。市場の変化、プロダクトのアップデート、顧客層の変化に応じて、定期的に見直すことが推奨されます。少なくとも半期に一度、または大きな施策を実施したあとには、ジャーニー全体を再確認する習慣をつけると、改善サイクルが機能し続けます。
まとめ
カスタマージャーニー分析の基本的な流れは、次の4ステップです。
- 見る :感情の谷・摩擦・離脱点を特定する
- 仮説化する :「なぜ起きているか」を定性・定量の両面から考える
- 優先度を決める :インパクト×実現性のマトリクスで順番を決める
- 検証する :KPIを設計し、先行指標と遅行指標の両方で効果を確認する
まずは1つの接点に絞って、このサイクルを小さく回してみることをおすすめします。全体を一度に変えようとすると動けなくなりますが、1つの接点の改善からはじめると、チームの自信とノウハウが積み上がっていきます。
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- カスタマージャーニー作成(作成手順の詳細)
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