『三桜工業株式会社』は、自動車製品の製造をメインの事業にし、2021年に中期経営方針を発表し新たな挑戦にも取り組む企業です。埼玉県古河市に本社を構えつつ、製造拠点は19ヵ国、約80ヵ所に拡がっています。
弊社は2020年度下半期よりアサイン、現在までプロジェクトを続けています(2023年1月時点)。その時々の要件に合わせて、情報の再設計、ページ単位のデザインリニューアルを行っています。
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課題背景
依頼概要は、WordPressを使用した現行のコーポレートサイトの改修。
依頼をいただいた2020年度下半期〜2021年時点の要望は、以下のようにまとめられます。
- ウェブページ化されていない製品の詳細情報が大量にある点を解決したい
- 会社のイメージが伝わるよう情報の再設計がしたい
- 以後も、来年度(2021年度)の中期経営方針発表に合わせて、柔軟に対応してほしい
上記のように大まかな課題や要望は固まっており、課題を整理し言語化するところから一緒に進められる柔軟なデザインパートナーを探しているとのことで、情報整理を行うことを得意とした弊社へご依頼をいただきました。
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プロセス
三桜工業株式会社のような従業員数が多い企業様の特徴のひとつとして、ひとつの会議に参加される人数が多いことがあげられます。
会議に参加される方々には、各部署にさまざまなミッションや課題があり、同じ会社の中にあっても目論見が異なります。シンプルな作業依頼ひとつをとっても、細かなニュアンスを整理するための対話が重要になります。
さらに当時はまだコロナ禍の真っ最中で、対面での会議は叶わず、会議参加者のキャラクターもなかなか把握できない状況でした。
そんな状況でウェブサイト改修を進めても、各部署の意見が折り合うことなく、「社内で愛されないウェブサイト」が出来上がってしまうことが想像されました。
最初にワークショップを実施
まず依頼を受けてすぐに取り掛かったのが、関係者を一堂に集めて行うワークショップでした。
普段打ち合わせに参加される方、各部署の広報担当など15名ほどを招集し、「三桜工業の総意として、コーポレートサイトにどんな役目や機能を求めるのか」を全員で明らかにし、同じ方向を目指せるような環境を整えました。
コロナ禍で一つの場所に集まることはできなかったため、FigmaやDiscordなどのオンラインツールを使用して進行しました。
明確な方針を打ち立てるまでには詰めきれなかったものの、全部署にとって果たしたいと思える課題が見つかり、「○○ページは、○○部の○○さんにお願いした方がいい」といった、コンテンツに応じた対応の変化もみんなで想像することができました。
また、多くの関係者に参加いただいたことで、プロジェクトの透明性も上がりました。
コミュニケーションを取る / 現地へ行く
潜在的な課題の発見、柔軟な対応を行なっていく上で、企業様を理解していることが重要だと考えていました。製品の情報だけではなく、会社の中にいる人の温度感や風土を実際に体験していく時間は必要でした。
そこで、1泊2日のヒアリング取材を実施しました。
三桜工業にある、ほぼ全ての部署の担当者様とお話をする時間を設けていただき、三桜工業への理解を深めました。それぞれの部署で抱える「自慢できるポイント」や「悩ましい課題」、そして「外に向けてアピールしたいこと」「今アピールが足りていないこと」を伺っていきました。
見えてきたのは、三桜工業は今まさに転換期であり、全社員で考えを統一しきれていないということです。「安定しているが業界全体が100年に一度の変革期と言われている、他に負けない強みをアピールしやすい既存事業」と「まだめぼしい成果が多く生まれていない、既存事業のノウハウを活かした新たなチャレンジ」の2つのアピールポイントがあり、どちらに重きを置くかは人や時期によって異なります。都度バランスをとりながら対外的に発信していく必要があり、そのバランス調整こそが最も難しいことであるとわかりました。
またワークショップと同様に、サイトを改修するにあたって会社全体の意向を汲む姿勢がより多くの社員に伝わり、多数の社員が納得できるサイトをつくる土壌が出来上がっていったように感じます。
情報設計を軸とするリニューアル
2021年度時点では、大幅なデザイントーンの刷新は行わない判断をしました。
当時は、前任業者と進めたサイトリニューアルを完了してから日も浅く、またデザイン的に社内で愛されていたこともあり、デザイントーンを刷新することに強い希望はありませんでした。
ワークショップやヒアリング取材を通して、発信する情報のバランスをとることが重要であるということが見えてきていました。情報を整理することで、「既にサイトのどこかにある情報、まだサイトに出ていない情報を、今よりも適切な形で見せる」ようにアップデートする方針を打ち立てました。
デザイン会社としては、デザイントーンの刷新をすることで「かっこいいものをつくった」「なにかが変わった」と実績がわかりやすくなり、デザイン会社として自らをアピールしやすくなるという事情があります。しかし、この案件においては、敢えてトーンの刷新という選択肢は選ばず、要望に寄り添うことに重きを置いています。
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アウトプット
改めて、2020年度下半期〜2021年時点の要望は以下とされていました。
- ウェブページ化されていない製品の詳細情報が大量にある点を解決したい
- 会社のイメージが伝わるよう情報の再設計がしたい
- 以後も、来年度(2021年度)の中期経営方針発表に合わせて、柔軟に対応してほしい
ワークショップ、ヒアリング取材、方針の策定を経て、以下のような解決を行なっていきました。解決を行う中でも、本当にその解決策で課題の本質が解決されているのかなどを検証しながら進めました。
製品詳細だけでなく製造技術も伝える
当初の予定通り、製品の詳細情報をサイトに掲載することに対応したものの、それだけでは足りないという気づきがありました。三桜工業の主製品は、世界レベルで見てもトップクラスの製品なのですが、製品詳細ページの写真やスペックを見ただけではその技術力は伝わりません。また、専門用語も多く、同業者にしか伝わらない情報になってしまっていました。
製品詳細ページは、「他に負けない既存事業の強み」を狭い範囲にしか伝えられておらず、「既存事業のノウハウを活かした新たなチャレンジ」の姿勢を伝えるのにも不十分でした。
その気づきから、従来は製品詳細ページを並べていただけのカテゴリトップページからアクセスできる「製造技術ページ」を追加するアイデアが生まれました。「製造技術ページ」では、各技術について、主製品の製造ためだけのニッチな技術ではなく、汎用的な技術として紹介しています。
社内の文化を伝える動画や写真を制作する
従来のサイトは、デザインこそスタイリッシュで読みやすく素敵なデザインなのですが、レンタルポジ(サイトで購入できる写真素材)が多用されていました。特に気になるのが、トップページのファーストビューもレンタルポジが使われていたことです。サイト全体に非公式感が漂っており、会社のイメージが正確に伝わっていませんでした。
話を聞けば、この状態は望んで生まれた状況ではなく、プロジェクト進行の環境によって自然とそうなってしまったとのこと。今回のアップデートの際には「レンタルポジからの脱却」がテーマのひとつになりました。
具体的なアウトプットとしては、トップページ、製造情報、技術情報にて使われる動画や写真素材の制作を弊社が主導して行いました。三桜工業は、グローバルな企業であり海外から赴任された方も多くいらっしゃるので、多様性のある文化が伝わるようなディレクションを行いました。動画・写真中には実際に三桜工業で働く社員の方に出演いただくことで、会社の実際のイメージを伝えました。
この動画や写真素材は、「既存事業の強み」「新たなチャレンジ」の会社が持つふたつの側面を伝えるツールになりました。
柔軟に対応できるようWordPressを改修する
三桜工業は、依頼を受けた2020年度前後が変化の時期であり、中期経営方針合わせて訴求したい情報が入れ替わったり、伝えるニュアンスが変化していくことが予想されました。
その変化に対応するには、従来のサイトでは編集可能領域が少なく、改修が必要でした。改修対象となる領域が膨大なため、段階的に更新作業を進めていくことになりました。
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用いたデザインメソッド
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チーム
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Client三桜工業株式会社
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Art Direction村上 由朗(DSCL Inc.)
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Workshop Design村上 由朗(DSCL Inc.)
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Design村上 由朗(DSCL Inc.)、 安中 美稀(DSCL Inc.)
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Front-end Development村上 由朗(DSCL Inc.)、 松木 与一(DSCL Inc.)
(チームメンバーの役職などについては、プロジェクト当時のものです。)