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理論と考察

インナーブランディング研修の進め方|社員の心に響く企業文化のつくり方

インナーブランディング研修の進め方|社員の心に響く企業文化のつくり方

「理念は掲げているのに、現場では活かされていない」。そんな声を、経営者や人事担当の方からよく聞きます。

研修をやっても3ヶ月後には元通り。部門によって判断基準がバラバラで、一体感が生まれない。その原因の多くは、 理念を伝えるだけで、社員が体現できる形に落とし込んでいない ことにあります。

インナーブランディングとは、企業理念・価値観を社員が日常の行動指針として体現できる状態をつくることです。この記事では、デスケルが実際に関わったプロジェクトをもとに、ワークショップ設計から社内浸透・定着までの進め方を解説します。読み終わる頃には、研修をゴールにしない設計の道筋が見えるはずです。


インナーブランディングとは?現状診断と論点整理

「インナーブランディングって結局何をすればいいの?」。取り組もうとする方からいちばんよく聞かれる問いです。

インナーブランディングとは、 企業理念・価値観を社員が体現できる行動指針として浸透させること です。外に向けたブランディングと違い、対象は社員一人ひとりの行動と判断です。

従来の社内研修との大きな違いは、「伝える」から「一緒につくる」へのシフトです。一方的に理念を説明するだけでは、現場には浸透しません。社員自身が価値観を言葉にするプロセスに参加してはじめて、腹落ちが生まれます。

インナーブランディングの位置づけ

取り組むべき場面は、「組織が拡大期にある」「合併・統合で文化が混在している」「採用強化に伴い価値観を揃えたい」といったタイミングです。部門間で判断基準がバラバラになっていると感じたときが、はじめるサインかもしれません。

DSCL事例|デザイン思考研修プログラム開発:「言われたものをしっかり作る」のその先へ

デジタルソリューションで事業の付加価値向上を目指すチームに向けて、デザイン思考を学ぶ研修プログラムを設計・実施しました。Design School Koldingの6Cモデルを参考に、「分ける」「想い描く」のプロセスを全3回のワークで体験できる構成にしています。

特徴的だったのは、各グループにDSCLのデザイナーが参加して、創造的な振る舞いを間近で観察できる環境をつくったこと。さらに研修とは別日に少人数でのシェア会も設け、参加者の内省をサポートしました。マインドセットをボトムアップで変えていくには、「知識を渡す」だけでは足りないのです。

デスケルメソッドカードとは?

デスケルが現場のワークショップで使っている、思考と対話を進めるためのカード集です。リサーチ・発想・合意形成など、プロジェクトの場面ごとに使い分けるツールで、参加者が同じ言葉と手順で議論できるようにします。本記事では、インナーブランディングの各フェーズで実際に使うカードを順に紹介していきます。デスケルメソッドカード一覧はこちら

🃏 デスケルメソッドカード:DATA WALL -情報壁面-

現状を「見える化」するところからインナーブランディングははじまります。「DATA WALL」を使って、各部門が持つ価値観・課題・日常の判断基準を壁一面に貼り出すと、見えていなかったズレと共通点の両方が浮かび上がります。


インナーブランディングが定着しない3つの原因

「研修をやったけど効果が続かない」。現場でよく聞く声で、失敗のパターンはいくつかの傾向に絞られます。

原因1:トップダウンの一方的な押しつけ

経営陣が決めた理念を一方的に「これが私たちの価値観です」と伝えても、現場には響きません。「また上から来たやつだ」と受け取られ、形式だけこなして終わる。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。

理念への共感は、自分が言語化のプロセスに関わったときに生まれます。マニュライフ生命保険での観察ワークショップでも、社員約30名が部署横断で3時間を過ごし、写真からの観察体験と「知恵カード」の作成を通じて、固定的な業務アプローチから創造的な顧客視点へと思考を転換していきました。「言われた理念」から「自分たちの気づき」へ変わる瞬間が、浸透のはじまりです。

対策 :現場社員が言語化プロセスに参加する参加型設計にする。

原因2:抽象的すぎて行動に落とし込めない

「お客様第一」「挑戦を大切に」。立派な理念でも、現場で判断に迷ったとき使えなければ意味がありません。「それで結局、明日から何をすればいいの?」という問いに答えられない理念は、飾りになってしまいます。

抽象的な「DXを進める」のような大きな目標は、各部署へのインタビューとデザインワークショップを通じて、戦略方向性を絞り込み、ビジュアルストーリーテリングで資料化することで、組織が参照できる具体的な指針に変わります。曖昧な言葉のまま伝えると判断のブレを生むため、こうして言葉を具体化する作業こそが、定着の鍵になります。

対策 :理念を「この場面ではこう行動する」という具体的な行動指針として共創する。

原因3:一過性のイベントで終わってしまう

研修当日は盛り上がる。でも3ヶ月後には元通り。最も多いパターンと言ってもいいかもしれません。インナーブランディングは、ワークショップが終わってからが本番です。

損保ジャパン(関西総務部)での観察ワークショップでは、34名の参加者が学びを「観察のコツカード」という形に落とし込み、日常の業務に持ち帰れる設計にしました。イベント当日で終わらせず、現場で繰り返し参照できる道具にすることで、視点の変化が定着していきます。

対策 :運用・振り返り・改善のサイクルを最初から設計に組み込む。


デスケルメソッドカードを使ったワークショップ設計|参加型合意形成の実践

「どうやって社員を巻き込んで合意形成すればいいかわからない」。担当者がぶつかる最初の壁ですが、ワークショップの設計を3つのフェーズで考えると整理しやすくなります。

PHASE 1 価値観の可視化|「違い」と「共通点」を同時に見つける

最初のステップは、各自が持つ価値観を外に出すことです。頭の中にあるだけでは、ズレはいつまでも見えません。

🃏 デスケルメソッドカード:CLUSTERING -情報分類-

🃏 デスケルメソッドカード:DEFINE KEYWORD -言葉定義-

「CLUSTERING」で付箋を分類し、「DEFINE KEYWORD」で重要な言葉の意味を揃えていきます。「うちの会社らしさ」を全員で言語化する3時間は、表面上はバラバラに見えた価値観の中に、共通の根っこがあることを発見させてくれます。

人事担当者 「こんなに部門で価値観が違ったんですね」 現場リーダー 「でも言葉は違っても、根っこは同じことを言ってる気がします」 経営者 「これが私たちの本当の価値観ですね」 ファシリテーター 「その共通点から、行動指針を一緒に作りましょう」

DSCL事例|リコー:部署横断チーム9名に「共通の物差し」が生まれた瞬間

株式会社リコーのプラットフォームサービス開発では、部署横断で集まった9名のチームビルディングワークショップを4時間で実施しました。サービス内容とターゲットユーザーに関する知識を全員で外在化し、情報を粒度別に整理していったのです。

評価の軸として使ったのは「すごい・必要・心づかい」という3つの感情基準。この共通の物差しで機能を評価することで、プロジェクトの方向性と優先度への共通理解が生まれました。部門ごとに「当たり前」が違う組織では、価値観を揃える場を意図的につくることが、チームの力を引き出します。

PHASE 2 行動指針の共創|「理念」を「明日の行動」に変える

価値観が可視化できたら、次は「では実際にどう行動するか」を言葉にします。ここでの合意形成が、研修の質を決めます。

🃏 デスケルメソッドカード:CONCEPT SHEET -意図記述-

🃏 デスケルメソッドカード:STORY -物語作成-

「CONCEPT SHEET」で「何を・誰に・なぜ」を1枚に整理し、「STORY」でそれを物語として語れるようにします。スペックではなく、感情に訴えかけるストーリーに変換することで、現場での実践に結びつきやすくなります。

PHASE 3 合意形成とコミット|「みんなで決めた」感覚が定着を生む

どれだけ良い行動指針でも、「上から降りてきた」と感じられると実践されません。全員参加で決めた、という感覚こそが継続の源になります。

🃏 デスケルメソッドカード:TEAMWORK -親密関係-

🃏 デスケルメソッドカード:VISION & MISSION -目的共有-

参加者A 「みんなで決めたから、やらなきゃって思います」 参加者B 「自分たちで作ったルールだから、納得感が違いますね」 マネージャー 「こういう場があるかないかで、組織の動きが全然変わりますね」

参加者が「自分たちで作った」と感じられるワークショップの設計が、その後の定着率を大きく左右します。ファシリテーターの役割は、答えを提供することではなく、参加者が自分の言葉で語れる場をつくることです。

ワークショップ設計の流れ


社内浸透の仕組み作り|ワークショップ後が本番

「ワークショップは盛り上がったのに、その後が続かない」。最もよくある壁ですが、浸透は気合いではなく仕組みで設計するものです。

浸透ツールの作成

行動指針カードやポスターは、単なる「飾り」ではありません。日常の中で価値観を思い出す「きっかけ」を設計することが目的です。

🃏 デスケルメソッドカード:VISUALIZATION -図解作成-

言葉だけでは伝わりにくい価値観も、図解やイラストで可視化することで、チームの共通認識になりやすくなります。デスケルでは採用パンフレットから社内ツールまで、「視覚で伝える」設計を大切にしています。

定期的な振り返りの場

月次や四半期ごとに「行動指針を実践できているか?」を振り返る場を設けることで、形骸化を防ぎます。

🃏 デスケルメソッドカード:LOG -痕跡保存-

「LOG」として取り組みの変化を記録しておくと、「あのワークショップからこう変わった」という実感が積み重なります。振り返りの場は、改善のためだけでなく、チームの成長を実感する場にもなります。

DSCL事例|損害保険ジャパン(関西総務部):学びを「カード」に残すと日常が変わる

損害保険ジャパン(関西総務部)での観察ワークショップは、34名の参加者が3つのステップで取り組む構成でした。グループワークでの価値観の共有、写真からライフスタイルを妄想する観察体験、そして学びを仕事に活かすための「観察のコツカード」の作成。この流れで、お客さまや同僚との関係構築に活かせる観察力を養っていきます。

ポイントは、学びを「カード」という持ち帰れる形にしたこと。日常の業務で参照できる道具があるからこそ、「こんな視点で仕事を見てたんですね」という対話が現場で自然に生まれてくるのです。

評価制度との連動

行動指針の実践を人事評価に組み込むことで、「やるかやらないか」から「どう実践するか」へと意識が変わります。ただし、義務感を押しつけるのではなく、「実践できた行動を共有する場」として設計することが大切です。

🃏 デスケルメソッドカード:INSIGHT -理由分解-

「なぜその行動ができたのか」「なぜうまくいかなかったのか」を深掘りする「INSIGHT」のアプローチは、振り返りの質を高めます。表面的な評価ではなく、行動の背景にある思考を引き出すことで、次のアクションが見えてきます。


効果測定と継続的改善|「見えない変化」を言葉にする

「効果があったかどうかわからない」。インナーブランディングでよくある悩みですが、測定の指標を事前に設計しておくことで、変化を実感しやすくなります。

インナーブランディングの効果測定

定量指標

社員エンゲージメント調査・離職率・欠勤率・生産性など、定期的に数値を追います。取り組み前に「ベースライン」を測定しておくことが、変化の可視化に不可欠です。

定性指標

数値だけでは見えない変化があります。「会議の発言が増えた」「部門間でアイデアを共有するようになった」「新入社員に自社の話を自分の言葉でするようになった」。こういった行動変化が、文化の浸透を示すサインです。

改善サイクルの構築

インナーブランディングはPDCAで回すものです。年次で振り返り、「浸透できていない部分はどこか」「どの行動指針が現場で機能しているか」を見直します。

🃏 デスケルメソッドカード:IMPACT & FEASIBILITY -発想評価-

次の取り組みを設計するとき、「効果の大きさ」と「実現可能性」の二軸で優先度を整理する「IMPACT & FEASIBILITY」は、リソースが限られる中での意思決定を助けます。全部を一気にやろうとせず、効果の大きいところから積み上げることが、継続のコツです。


採用・広報活動への波及効果|内外一貫したブランド体験

「インナーブランディングが採用にも効果があるって本当?」。結論から言うと、内側が変わると外側も変わります。

採用活動への好影響

自社の価値観を自分の言葉で語れる社員が増えると、採用活動に直接的な好影響が生まれます。社員が友人・知人に自社を紹介するようになり、カルチャーフィットした候補者が集まりやすくなります。

「自分たちで言葉にした魅力」は、採用候補者にも届く力が違います。採用ブランディングとの連携を意識することで、インナーとアウターが一体になった発信が生まれます。

広報・PR活動への好影響

社内外で一貫したメッセージを発信できるようになると、企業ブランドの信頼性が高まります。採用サイト・SNS・プレスリリースが同じ価値観に基づいているとき、見ている人はその「本物感」を感じ取ります。

🃏 デスケルメソッドカード:VALUE PROPOSITION CANVAS -独自価値-

「VALUE PROPOSITION CANVAS」を使って、自社が提供する価値と、社員・候補者・顧客それぞれが求めていることをマッピングすると、内外一貫したメッセージの核心が見えてきます。採用・広報・インナーブランディングを別々の施策として考えるのではなく、同じ価値観から生まれる一連の体験として設計することが、長期的なブランド力につながります。

具体的なテンプレートは採用広報テンプレートを参照してください。

顧客満足・業績への好影響

価値観を体現する社員が増えると、顧客との接点での行動が変わります。「判断に迷ったときにどう動くか」が揃っている組織は、顧客体験の質が安定します。インナーブランディングは、中長期的には顧客満足と業績にも波及していきます。


まとめ

インナーブランディングは、「研修をやる」ことではなく、「社員が価値観を体現できる仕組みをつくる」ことです。実際のプロジェクトから見えてきた、成功する企業の共通点があります。

  • 社員をつくり手にする :トップダウンではなく参加型で、「自分たちの価値観」を共創する
  • 理念を行動に落とし込む :抽象的な言葉を「明日からこう動く」レベルに具体化する
  • 継続する仕組みを最初から設計する :ワークショップは入口。運用と振り返りが本番
  • 採用・広報と連携させる :内外一貫したブランド体験が、長期的な企業力になる

「研修はやったけど定着しない」。そのお悩みからでも、ぜひ一度ご相談ください。

「理念が現場に浸透しない」「研修が一過性で終わってしまう」。そんな段階からでも、ぜひお気軽にご相談ください。

著者情報

日野 祥太郎

SHOTARO HINO

日野 祥太郎

Creative Director

デザイン、店舗運営、メディア運営を横断するクリエイティブディレクター。強いグラフィック力と経営視点を武器に、CI設計から新規事業まで企業の魅力を最大化させます。

提供領域

  • ブランディング
  • CI設計
  • ディレクション
  • 事業開発
  • メディア運営