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理論と考察

ファシリテーション×ブランディング|合意形成の実践

ファシリテーション×ブランディング|合意形成の実践

「毎週会議をしているのに、なぜか方針が決まらない」「部署ごとに言うことが違って、ブランドの軸がブレてしまう」そんな悩みを抱えたまま、プロジェクトが停滞していませんか。

ブランディングで最もエネルギーを奪われるのは、実は「何をつくるか」ではなく「どう合意するか」のプロセスです。場の設計が曖昧なまま進めると、会議は空転し、決定は覆り、チームは疲弊していきます。

この記事では、デスケルが支援した2つの公開事例をもとに、合意形成に効くファシリテーション技法と「場の設計」のポイントを解説します。

合意形成の主な失敗パターンと是正策

失敗パターン原因是正策
会議が空転する論点が可視化されていない付箋・キャンバスで論点を「場の外」に出す
部署間で対立する価値観・情報量のギャップ共通体験・評価軸をそろえる
決定が覆る合意の根拠が残っていない議事録ではなく「合意の図」として記録する
疲弊して離脱する参加意義が感じられない「自分の意見が反映された」体験を設計する

事例1|複数担当部署の想いを言語化し、組織全体のブランド基盤をつくる

放送文化基金 ウェブサイトリニューアル

日本のメディア文化を支えるために。放送文化基金ウェブサイトリニューアル(公益財団法人 放送文化基金)

課題

1974年設立の公益財団法人 放送文化基金では、ウェブサイトのリニューアルを機に、組織としての発信のあり方を根本から見直すプロジェクトが始まりました。

技術面では、既存CMSが独自カスタマイズされており保守運用が困難な状態でした。しかし、より根深い課題は「情報設計」にありました。基金賞・助成・フォーラムといった各事業のコンテンツが散在し、それぞれの担当部署が独自に動いていたため、「組織として何を誰に届けたいのか」という共通の視点が薄れていたのです。

ウェブサイトを作り直すことはできても、その前提となる「ブランドの軸」が言語化・合意されていなければ、リニューアルの効果は限定的になってしまいます。デスケルはこの課題に、ファシリテーションを起点とした伴走支援で応えました。

設計・アプローチ

デスケルはまず、会議室の壁一面を使った「課題出し付箋ワークショップ」を実施し、組織全体が抱える現状の課題を可視化しました。出した付箋は要件定義期間(約3ヶ月)にわたって壁に貼り出したまま、議論の進展に合わせて更新を続け、合意の蓄積を「場に残す」運用にしています。そのうえで、基金賞・助成・フォーラムの各担当者に対して週1〜2回・各2〜3時間の深掘りヒアリングを重ね、それぞれの事業が持つ想いと価値を丁寧に言語化していきました。

このプロセスを通じて、組織としての役割を次の2軸に再定義しました。

  • 良質なコンテンツづくりの継承 :過去の実績・知見を次世代へ繋ぐ
  • 放送文化の時代に合わせた発展支援 :社会の変化に対応した助成・発信の継続

ターゲットも「制作者・研究者などの業界人」と「一般視聴者」に整理し、誰に何を届けるかという合意を組織全体で形成しました。この共通認識を土台にして、ウェブサイトの情報設計・デザイン・CMS構築が進められています。

成果

プロジェクトを振り返り、担当者からは次のようなコメントが寄せられました。

「ワークショップやヒアリングを通じ、“誰に何を届けたいか”を改めて言語化でき、今後の広報活動全体の基盤になった」「職員が自分たちで更新できるようになり、『もっと社会に共有したい』という気持ちが自然に高まった」

公開後は閲覧者から「フレッシュで明るい」「見やすい」「コンセプトが明確」といったポジティブなフィードバックが寄せられました。ブランドの軸が合意されたことで、担当者が自律的に情報を発信しようとする意識が生まれ、組織の発信力そのものが底上げされた事例となっています。

この事例のポイント

この事例のポイントは、「ウェブサイトを作る前に、組織の想いを言語化・合意するプロセスを設けた」ことにあります。付箋ワークショップと深掘りヒアリングの組み合わせにより、担当者それぞれの視点が場に並び、「全体としての優先順位」が自然と浮かび上がりました。

また、合意形成の成果物が「ブランドの軸」という形で言語化されたことで、その後の広報活動全体の基盤としても機能しています。ワークショップで生まれた合意が、一時的なアウトプットではなく組織の資産になる設計です。

活用しやすい場面 :複数部署が関わるコーポレートサイトリニューアル、組織のブランドメッセージ策定、広報・発信方針の合意形成ワークショップ


事例2|部署をまたいだ認識のズレを可視化し、チームの共通言語を生み出す

株式会社リコー 統合サービス開発チームビルディング支援

部署や部門をまたいだ「統合サービス開発プロジェクト」のチームビルディング支援(株式会社リコー)

課題

株式会社リコーが、リコー製品内で使用できるアプリケーション開発プラットフォームの構築に取り組んでいたプロジェクトでの事例です。このプロジェクトには企画・アナリスト・デザイナー・エンジニアなど、多様な専門性を持つ関係者が集まっていました。

それぞれが異なる立場でサービスに携わっているため、「メンバーごとにサービスへの認識がバラバラになっている」という問題が生じていました。情報はそれぞれが持っているのに共有されず、議論のたびに「そこから話すのか」という温度差が積み重なっていく。そんな状態が続いていました。

「共通の認識がない場では、いくら議論を重ねても合意には辿り着かない」。これがチームが直面していた本質的な課題でした。

設計・アプローチ

デスケルは「チームの共通認識づくりワークショップ」を設計し、9名のプロジェクト関係者が参加する4時間のセッションを実施しました。ワークショップは以下の4つのフェーズで構成されています。

  1. 情報の抽出 :チーム全員がサービスに関する情報を付箋に書き出し、「頭の中にあるもの」を外に出す
  2. 情報の整理 :出た情報をグループ分けし、用語の粒度を揃えて全体を見渡せる状態をつくる
  3. 評価活動 :「すごい!」「無いと困る!」「気が利いてる!」といったシールを使い、利用者の視点からサービス機能を評価する
  4. マッピング :要素間の関係性を図式化し、サービスの全体像を可視化する

ここで重要なのは、「発言力の強さ」ではなく「可視化された情報」が議論の軸になる設計です。誰かの意見が埋もれることなく、全員のインプットが場に並ぶことで、対話の質が根本から変わります。

プロセスを言語化・図式化して参加者に手渡すことで、「場の設計がわかる安心感」がチームの主体性を引き出します。参加者は受け身の「受講者」ではなく、場をともにつくる「共創者」として動き始めます。

成果

ワークショップ後、参加者からは次のようなコメントが寄せられました。

「サービスの目指す方向、そして現在地が初めて全員で把握できた」「シールを使った評価では項目に順序が付き、サービスの全体像が立ち上がってくる感覚があった」「メンバーがどう考えているかを理解する、貴重な機会になった」「プロジェクトの課題を、チーム全員で共有・認識することができた」

さらに、ワークショップ後の食事会に全員が自発的に参加するなど、「チームとしての熱が生まれた」ことが実感されました。「共通言語」が生まれた瞬間、チームは合意形成を超えて「共創」のフェーズへと移行していきました。

この事例のポイント

この事例のポイントは、「意見を出させる」のではなく「情報を外に出す仕組みをつくる」ことにあります。付箋やシールといったシンプルなツールでも、設計次第でメンバーの参加意識は大きく変わります。

また、「情報の粒度を揃える」ステップが合意形成の鍵でもあります。同じ言葉を使っているように見えても、各自が異なる意味で捉えていることは珍しくありません。共通定義をつくるプロセスそのものが、チームの土台になります。

活用しやすい場面 :新規プロジェクト立ち上げ時のキックオフ、多職種が関わるサービス開発の初期段階、ブランド再定義の合意形成フェーズ


合意形成に繋がったポイント

2つの事例から見えてくる「合意形成に繋がったポイント」を整理します。

  1. 場の設計を参加者に開示する 「今日なぜこれをするのか」を冒頭で明示することで、参加者の安心感と主体性が高まります。目的が共有された場では、対話の深さがまるで変わります。
  2. 論点・情報を一つの場に書き出す 誰もが同じ情報を見ながら対話できる状態をつくります。発言力に左右されない場が実現されます。
  3. 評価の軸を全員でそろえる 「すごい!」シールや「嬉しかった言葉」の共有など、評価の基準を体験的に共有することで、議論がかみ合うようになります。その上で「何がよいか」の基準を言語化することで、建設的な合意が生まれます。
  4. 全員のインプットを成果物に反映する 誰かの意見だけが通るのではなく、全員のインプットが場に並ぶ設計が、合意の当事者意識を生みます。「自分が参加した意味があった」と感じられる体験が、次のアクションへの推進力になります。
  5. 成果物をフォローアップに接続する ワークショップで生まれた合意や気づきを資料化することで、ただ発散して終わりではなく、今後のアクションに活かせる組織の資産に変えられます。

自社で活かすためのチェックリスト

合意形成ワークショップを設計・依頼する前に確認しておきたい項目です。

  • 参加者の役割・情報量・意思決定権の差を把握しているか
  • 「決める」「共有する」「理解する」のどの目的で場を開くかを明確にしているか
  • 可視化のツール(付箋・キャンバス・図式など)を準備しているか
  • ワークショップ後のフォローアップ(報告・実装・振り返り)を設計しているか
  • 守秘に配慮した記録・共有のルールを決めているか

まとめ

2つの事例に共通していたのは、「伝える」「説得する」ではなく「可視化して、一緒に考える場をつくる」というアプローチです。

ファシリテーション×ブランディングの本質は、正解を押しつけることなく、多様な立場の人たちが「自分たちで決めた」と感じられるプロセスを設計することにあります。場の設計が変われば、会議の質が変わります。会議の質が変われば、合意の質が変わります。そして合意の質が変わってはじめて、ブランドは組織の中に根付いていきます。

事例を見て「自社でも試してみたい」「もう少し詳しく聞きたい」と感じた方は、ぜひお気軽にご相談ください。

著者情報

大竹 沙織

SAORI OTAKE

大竹 沙織

Facilitator

多摩美大卒。本質を突く洞察力と高い言語化能力を武器に、複雑な課題を解きほぐすファシリテーションの達人です。抜群の安心感で場をリードし、対話から生まれた要点を図解やグラフィックで鮮やかに可視化。停滞した現場を動かし、納得の解決策へと導きます。

提供領域

  • リサーチ・分析
  • ワークショップ
  • 研修