『株式会社アド・ソアー(以下、アド・ソアー)』は、大手メーカー開発部門のアウトソーシング型技術提供をメインに多彩なサービスを展開している技術支援企業です。自動車や建設機械、医療機器、そしてホビーまで、幅広い分野において設計・開発プロセスの業務を担っています。
アド・ソアーの事業成長において、最も大切な要素が人材採用です。今回その強化のために、採用パンフレットをリニューアルするプロジェクトが立ち上がりました。
弊社では、伝えるべき情報を取捨選択して形にし、会社としての魅力を表現する言葉に落とし込むことで、採用に活きるパンフレットの制作を行いました。
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課題背景
テーマは採用パンフレットのリニューアル。初回の打合せではヒアリングを行い、アド・ソアーの感じている課題意識をひもといていきました。そこで見えた今回のプロジェクトのポイントは、主に以下3点となります。
1. 会社資料にあたる制作物を整理・統合し、プロの手でクオリティアップする
アド・ソアーでは「会社案内」と「採用パンフレット」さらには「漫画を用いた会社紹介冊子」の3つを用意していたものの、内容が似通っており、つくりわける必要があるのか疑問の声が上がっていました。またそれらはスタッフが内製でつくったものであり、「プロに依頼してしっかりしたものを制作したい」という意向をお持ちでした。
2. 掲載する内容と見せ方を設計することで、より会社の魅力が伝わりやすいものに
弊社で既存の3つの制作物を分析すると、以下の2点が主な課題として浮かび上がりました。リニューアルでは、これら課題の解決を目指すこととしました。
- (1)ブランディングという観点での検討がなされておらず、会社としての魅力を紙面上で伝えきれていない
- (2)全体の構成やコンテンツの内容が設計されておらず、伝えたいことがぼやけてしまっている
3. 採用不振を打破し、事業の成長を支える人材獲得のキーアイテムに
今回のリニューアルの背景には、コロナ禍以降特に採用面で苦戦する場面が増えてきていたことがあげられます。技術支援という事業において、人材は何よりも重要な要素。そういった、近年の採用不振に対する危機感を打破することも求められていました。
弊社では、浮き彫りになったこれらの課題を整理してお伝えしつつ、解答を提示するのではなく、コミュニケーションを重ねて会社の魅力を明確ににしながら言語化していくプロセスそのものの重要性をお伝えいたしました。
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プロセス
ご提案を受諾いただき、制作がスタート。プロセスとしては、大きく4つのフェーズで進行していきました。
1. 制作プロセスとコミュニケーションイメージを共有する
まずは「制作プロセスの全体像」を共有する場を設定しました。オンラインホワイトボードツール「Miro」の画面を投影しながら、実際にその場で付箋にメモを書いたり、スケジュール調整を行うなど、コミュニケーションのイメージを実践の中で掴んでいただくこともこの場の狙いでした。この試みは非常に好評で、話した内容がすぐに可視化されることに期待感を感じていただけました。
こうして制作プロセスを一緒に可視化する過程を通じて、この後のプロセスで必要な情報を洗い出し、認識のすり合わせを行いました。
- ヒアリングすべき部門とその対象者は誰か
- 各部門における仕事内容や採用の現状、重視していることは何か
- 本プロジェクトのクライアント側担当者同士の間で認識が異なっていた部分はないか など
2. ヒアリングとワークショップを通じて制作方針を決める
制作の方針を決めるため、前工程であがった約10名ほどのメンバーと約2週間かけてコミュニケーションを取りました。実施したのは個別のヒアリングを数回と、該当するメンバー全員が参加するワークショップです。
ヒアリング
各支店毎にパンフレットの使い方や採用希望人数、採用ツール、求める人物像などについてお聞きしました。
ワークショップ
現状の会社案内に対して良いと思う点だけでなく、不満な点も含めて率直な意見を引き出していく場を設定。多くの方を制作のプロセスに早い段階から巻き込むことによる一体感の創出と、会社の魅力を見つけて言葉にするという2点を目的としています。
3. 社員の声に耳を傾け、コンテンツを決める
ヒアリングとワークショップによって得た情報をまとめることで、「アド・ソアーらしさ」が浮かび上がってきました。それが「風通しの良さ」と「人を大切にする姿勢」です。何より経営層と現場、どちらも同じ認識を持っていたことが印象的で、これにより打ち出すべき内容がより一層明確になりました。
反対に認識に乖離があったのは、意外にも社長にまつわることでした。これまで代表の宗片 敏昭氏は前に出ることに苦手意識を感じていたそうですが、ヒアリングとワークショップであがってきた社員の声が示していたのは、代表の人望の厚さだったのです。そういった社員の声が後押しとなり、紙面上でも社長のメッセージを写真とともに大きく掲載することが可能となりました。コンテンツづくりのプロセスにおいて、このようにトップと現場とのコミュニケーションが生まれたことは、プロジェクトの大きな推進力となりました。
ヒアリングとワークショップを通じて集まった意見は膨大な量となったため、まとめあげるまでには1か月ほどの時間を要しました。大切にしたのは、情報の取捨選択です。技術職や営業職、管理職など、立場の違いによって生じる意見の違いを認識した上で、今回のパンフレットの目的を鑑みて、どんな情報をどこまで掲載するか、時間をかけて精査しました。
4. 会社の魅力が伝わるようにデザインをつくり込む
必要な情報が整理できたところで、紙面のレイアウトを検討し、デザインをつくり込んでいきました。合わせて、コンテンツの制作方針に沿って写真やデータなどの準備を進めていきました。
写真撮影
会社の魅力を感じていただくためには、そこにいる人の様子がわかる多数の写真が必要と考えました。被写体やロケーションの選定、トーンの調整など、アド・ソアーらしさが伝わるようディレクションし、撮影を行いました。
コンテンツ作成
定量的なデータを用いて伝えるべき情報を集約し、「データで見るアド・ソアー」のパートを設定。アンケート項目を検討、作成し、集計した情報のビジュアライズを行いました。
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アウトプット
アド・ソアーの魅力である「風通しの良さ」「人を大切にする姿勢」を端的に伝えるために、ストレートに本人たちの様子や言葉を用いることを重視しました。写真の力を借りてそれらをエモーショナルに表現しつつ、実績や数字などのデータを添えることによって、地に足の着いた実感を持って伝えられるようバランスにも配慮しています。
親しみやすさを感じるデザイン
「風通しの良さ」「人を大切にする姿勢」というアド・ソアーの魅力が伝わるよう、人当たりの柔らかさを感じる軽やかな色使いや、動きのあるレイアウトによって、親しみやすさを感じるデザインに落とし込みました。「会社案内」と「採用パンフレット」のふたつの用途を満たすものとして、会社の人となりを伝えつつ、採用に偏らないようバランスを考慮しています。
会社の人となりを伝える、豊富な「人」の写真
会社の人となりをそこにいる人を通じて感じていただくため、社員の方々の写真を意図的に多く掲載しました。特に、社員から大きな人望を集める社長の写真をメッセージとともに掲載することは優先事項でした。新入社員の方へのヒアリングの中で「求人応募の際に、Webサイトの中で社長のメッセージだけは見た」という声があったことも、その後押しとなりました。
自社への認識のアップデートに伴い、キャッチコピーを刷新
今回の採用パンフレットリニューアルに伴い、会社としてのコピーも「技術力で未来へ」から「技術力と人間力で未来へ」へと変更しました。ここまでのプロセスを通じて、社員の方々が改めて認識したアド・ソアーに対するイメージをまとめ直したものです。
エビデンスとしての数字
会社の様子や魅力を伝えるための根拠として、いくつかの項目をデータとして掲載しました。社員へのアンケート結果を集約したページをつくり、「離職率」「風通しの良さを感じている割合」など会社の実態が伝わる項目に加え、「インドア派?アウトドア派?」「お酒の飲み方は?」などくだけた質問も織り交ぜることで、会社の雰囲気を感じていただけるようにしました。
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成果
アド・ソアー様からは下記コメントをいただきました。
ワークショップが自分たちの会社をブランディングの観点で理解する良い機会になった。
- 社内の認識が統一され、みんなでひとつのものを一緒につくりあげる経験ができた。
- それぞれが思っていること、考えていることを知ることができて良かった。社長や部門長だけでなく、社員がどんなことを考えているのかを知ることができた。
- ブランディングに対する意識が変わった。何度も同じことを伝えながら、地道に広げていく必要があるのだと理解できて、強化しなければいけないという意識が生まれた。
- ワークショップの経験が非常に良かったので、自分たちでも採用活動の案出しなどに取り入れている。みんなが発言できる機会として、今後も活用できそう。
求職者に社員の印象や会社の魅力を伝えられるパンフレットができた。
- 実際の採用活動でパンフレットを活用する中で、求職者の方から良い評価をいただいている。
- 特に、在籍中の若手社員が掲載されている点、各営業所の取り扱い製品が区分されている点、「データで見るアド・ソアー」のページにエビデンスとしての数字があることで、弊社社員の印象や会社の魅力がしっかり伝わっていると感じている。
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用いたデザインメソッド
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チーム
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Client株式会社アド・ソアー
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Direction小橋 隆司(DSCL Inc.)
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Research岩ケ谷 実咲(DSCL Inc.)
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Design岩ケ谷 実咲(DSCL Inc.)
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Text Writing岡澤 修平(971)
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Photograph佐野 優典