
放送文化基金賞とは、公益財団法人放送文化基金が優れた放送番組・配信コンテンツや、放送文化・放送技術の分野で顕著な業績を挙げた個人・グループを表彰する賞です。その賞の贈呈式で受賞者及び来賓者にお渡しするものとして、その年の受賞作品・受賞者などが掲載されるパンフレットがあります。
弊社では贈呈式で最初に受賞者へ手渡されるそのパンフレットを、 「プレゼント感」と「社会的意義」の両立を軸に再設計しました。毎年の表紙モチーフ頼みから脱し、年次差分は表紙のビジュアルだけで統一するコレクション設計、表紙・本文で使う紙の変更による格式の向上、写真とタイポグラフィ中心の端正なレイアウト方針を確立しました。これにより今まで以上に「もらって嬉しい」「保存したくなる」「格式が伝わる」ような受賞年鑑にアップデートしました。
課題背景
従来は毎年、花などのモチーフを起点に表紙から中面まで展開してきましたが、年次を重ねる中でアイデアが枯渇し、より一層贈呈物としての「ありがたみ」を高められれば、という状況でした。
ページ内の最優秀賞はより豪華に扱いたい一方で、ドキュメンタリー等の社会的テーマに対しては過度なお祝い感を抑える配慮も求められていました。そこで、受賞した作品の素晴らしさを過不足なく伝えながら公共性を損なわない表現を目指し、「プレゼント感」と「社会的意義」を同時に感じられる設計が求められました。
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プロセス
1. 贈呈される側の視点に立つ
「表彰された受賞者が一番に手にするもの」「もらって嬉しいもの」に立ち戻り、贈呈される側の視点に立って企画をしました。
2. 年鑑のようなコレクション性を設計
グラフィック部分で毎年の差分は“表紙のビジュアル”のみにし、サイズ・体裁・版面設計を固定してシリーズ化し、パンフレットを年ごとに連番で並べたときの統一美と保存性を向上するように設計しました。
3. 紙・加工の検討
格式を高めるために以下のような検討をしました。
- 表紙は厚紙で重厚感を担保(ハードカバー未満でも厚み重視)。
- 箔・エンボスで受賞の権威を象徴し、本帯は“のし”を想起させる所作の設計。
- 式典の儀礼性を高めるため、タトウ等のパッケージ封入案
各仕様はコスト・作業負荷・在庫性まで踏まえて採否判断をしています。
4. レイアウト指針の確立
グラフィック過多は避け、写真とタイポグラフィでシンプルに堂々と見せるレイアウトへ。最優秀賞の扱いはページ配分と写真点数で他の賞との違いを明確化し、各部門の間に扉ページを設けるなどして情報を詰め込まない「間」を作ることで格式を感じられるレイアウトを検討しました。
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アウトプット

体裁・シリーズ設計
年次差分を表紙のグラフィックに統一し、装幀・体裁・本文設計を固定化します。手元に並べた際の統一美と保存価値が高まり、毎年「集めたくなる」シリーズとして機能させます。
印刷用紙
これまで一般的なコート紙を使用していましたが、コストを考慮しつつ高級感を出すために「b7トラネクスト」を採用しました。表紙にはマットPP加工も施し、光の反射を抑えることで、落ち着いた上品な印象に仕上けました。
表紙グラフィック設計
タイポグラフィと合わせる要素として「放送文化」を極力抽象的に感じさせるアイデアが必要でした。そこで、サイトリニューアル制作時に撮影した「放送文化」を具体化した写真を加工で抽象化させることで、文脈を感じさせつつもタイポグラフィと共存するグラフィックにしました。

誌面レイアウト・編集方針
グラフィック過多を避け、写真×タイポグラフィで堂々と見せます。最優秀賞は見開き基準・写真3〜4枚で格上げし、各部門の厚みは編集設計で統制しました。



構成要素の最適化
冒頭に「放送文化とは」の序文を配して公共的意義を先に提示します。審査委員一覧や過去受賞一覧など、データベース的になりがちなページに関しても「間」を取り広くレイアウトし、重厚感を出すようにしました。
以上の刷新により、パンフレットは単なる記録物から、受賞年鑑として、次の年へと連続する“継がれる価値”へと転換できたと考えております。
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成果
プロジェクトをふりかえり、 クライアントからは下記のコメントをいただきました。
制作プロセスの中で印象的だった部分を教えて下さい。
今まで気づかなかったことを指摘され、気づきがありました。
パンフレットの課題は、どのように改善されたと感じられていますか?
紙質やデザインが高級感を感じさせるようになり、写真やレイアウトが整理されて見やすく、もらって嬉しいものに仕上がったと思います。
受賞者の方々のリアクションがあれば教えてください。
“今風”になったね。との感想がありました。
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用いたデザインメソッド
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チーム
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Client公益財団法人 放送文化基金
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Art Direction日野 祥太郎(DSCL Inc.)
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Design日野 祥太郎(DSCL Inc.)
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Project Management大竹 沙織(DSCL Inc.)
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Printing株式会社大熊整美堂
(チームメンバーの所属などについては、プロジェクト当時のものです。)
リリース
2025年7月