デザイン思考のプロセス|共感からテストまでの手法とポイント
目次
「デザイン思考の5プロセスは聞いたことがある。でも、実際に実務やワークショップで何をどう進めればいいかが曖昧だ」——そんな声をよく耳にします。共感・問題定義・アイデア・プロトタイプ・テストという5つの言葉に馴染みはあっても、それぞれのプロセスで「何を・どれくらいの時間で・どんなアウトプットを出すか」を即答できる人は多くありません。
この記事では、各プロセスを 目的/手法/成果物/評価指標 の4軸で整理し、実務・ワークショップに落とし込むためのポイントも合わせてお伝えします。
デザイン思考 5つのプロセス
デザイン思考は「共感→問題定義→アイデア→プロトタイプ→テスト」の5プロセスで進みます。ただし、5プロセスを一直線に進むわけではありません。テストの結果を受けて共感フェーズに戻ることもあります。
ポイント: 5プロセスは一方通行の「線」ではなく、テストの結果を共感に戻す ループ として運用することで、ユーザー理解の精度が高まります。

共感(Empathize)|ユーザー理解の深め方

目的: ユーザーが「実際にどう感じ、どう行動しているか」を、表面の言葉の奥まで理解することです。アンケートではなく、対話と観察によってインサイト(気づき)を拾い上げます。
手法とインプット: インタビュー・行動観察などの手法が基本です。インタビューでは「なぜそうしたのですか?」と深掘りする質問設計が重要で、観察では言語化されていない行動パターンをそのまま記録します。対象者は3〜5名でも、リッチな発言メモが得られれば十分なスタートになります。
成果物と評価指標: インサイトリスト(「〇〇だから△△した」の構造)と、ペルソナの素材となるデータが成果物です。インタビューの文字起こしだけでなく、「想定外の発言はどんなものがあったか」を記録しておくと、のちの問題定義で役立ちます。ペルソナシートの作り方と活用方法|チームの「合意」をつくる実践テンプレート を参照してください。
事例: 協立金属工業の事業パンフレットリニューアルでは、現場スタッフへのヒアリングとワークショップを通じて、長年培われた金属加工技術と顧客対応力を言語化するプロセスが共感フェーズの核心となりました。現場の「熱量」や「こだわり」を丁寧に掘り起こしたことで、機能説明にとどまらない情緒的な価値を持つパンフレットが生まれ、営業現場で自信を持って手渡せるツールへとつながっています。
放送文化基金のWEBサイトリニューアルでは、各事業担当者に継続的なヒアリングを重ね、それぞれの事業に込められた思いを丁寧に言語化するプロセスが設計の起点となりました。リニューアル後には「職員が自分たちで記事を更新できるようになったことで『もっと社会に共有していきたい』という気持ちが自然に高まった」という声が寄せられています。
よくある勘違い: 「アンケートを100人に取れば十分」 アンケートは仮説の検証には有効ですが、潜在ニーズの発見には不向きです。少人数でも対話と観察を組み合わせることで、数字では見えないインサイトが得られます。
ワークショップでのコツ: インタビュー相手を社内スタッフで代用することも可能です。ただし実際の業務担当者や顧客に近い人を選ぶことで、気づきの密度が大きく変わります。
問題定義(Define)|POVとHow might weの作り方

目的: 共感フェーズで集めたインサイトを整理し、チームが「同じ課題」に向かって動き出せる一文に凝縮することです。
手法とインプット: POV(Point of View)は「〈ユーザー〉は〈ニーズ〉を必要としている。なぜなら〈インサイト〉だからだ」の構造で書きます。その後、「How might we…(どうすれば〜できるか?)」というHMWの形で問いを立てると、アイデア出しへの橋渡しになります。NGパターンとして「どうすれば売上を3倍にできるか?」(広すぎ)、「どうすればボタンを青にできるか?」(狭すぎ)は避けましょう。
成果物と評価指標: POV文とHMW文が成果物です。評価基準は「チーム全員が同じ言葉で課題を語れるか」という合意度で測ります。合意できていない場合は、もう一度インサイトに戻ってグルーピングをやり直すことが重要です。
事例: 富士急行のWEBサイトリニューアルでも、ワークショップを通じた課題の掘り起こしから「遊びの質を高める」というコアコンセプトが生まれ、スリル系コースター一辺倒だったサイトから多様な来場シーンに対応した情報設計へと再構築されています。
よくある勘違い: 「問題定義しながら解決策も考えておこう」 解決策の発散はアイデアフェーズで行います。解決策ありきで問題を設定するのではなく、定義フェーズでは「何が問題か」だけに集中することがおすすめです。
アイデア(Ideate)|量と質を両立させる発想法

目的: 「正解を探す」から「可能性を広げる」へ思考を切り替え、多様なアイデアを出した上で有望な候補を絞り込むことです。
手法とインプット: ブレインストーミングの基本ルール(批判禁止・便乗歓迎・量を優先)に加え、SCAMPER法(代替・組み合わせ・適応・変更・他用途・除去・逆転)や6-3-5法(6人が3アイデアを5回ラウンドで書く)などで、個人ワークと集団思考を組み合わせます。
事例: カシオ計算機のデザインセンターと取り組んだ次世代コミュニケーションツールのデザイン開発支援では、技術起点の開発から離れ、「未来の当たり前」を想像するワークショップを起点にアイデアを発散させました。人間の根源的な欲求や感情の変化に焦点を当てたリサーチをインプットにすることで、既存の製品カテゴリにとらわれない具体的な利用シーンとツールアイデアを引き出すことができています。
よくある勘違い: 「いいアイデアだけを出す」 発散フェーズでの自己検閲は最大の敵です。突飛なアイデアが後から「核心アイデア」になることは珍しくありません。

プロトタイプ(Prototype)|低コストで学びを得る

目的: 完成度の高いものを作るのではなく、「仮説を検証するための最小限の試作品」を素早く作り、学びを最大化することです。
手法とインプット: 紙に手書きした画面遷移モック、Figmaなどのプロトタイプ機能で作成するクリック操作ができる簡易デモ、サービスのやり取りを人が演じるロールプレイが代表的な手法です。
成果物と評価指標: 検証用の簡易プロトタイプが成果物です。評価指標は「制作にかかった時間」と「検証できた仮説の数」のバランスで考えます。
事例: デザイン思考研修プログラムの開発支援事例では、3ヶ月・3回のワークショップを通じて、参加者が「生煮えのアイデアを提案することの重要性」に気づくプロセスを設計しました。完成させてから見せるのではなく、荒削りな状態のままチームに出してフィードバックを得る体験を繰り返すことで、プロトタイプを「完成品の手前」ではなく「学ぶための道具」として捉える感覚が身につきます。
よくある勘違い: 「プロトタイプはきれいに作らないといけない」 完成度が高いほど「もったいなくて捨てられない」心理が生まれます。捨てることを前提に、素早く作ることが重要です。
研修・WS でのコツ: 「20分以内に紙モックを1枚作る」というタイムボックスを設定するだけで、手が動き始めます。制約がチームの創造性を引き出します。

テスト(Test)|ユーザーテストと学びの蓄積

目的: プロトタイプを実際のユーザーに触れてもらい、仮説の正否を確認し、次のイテレーション(繰り返し)への学びを得ることです。
手法とインプット: ユーザーテストでは「タスク設計(何をしてもらうか)」「観察者と記録者の役割分担」「フィードバックの即日整理」の3点が重要です。「正しく使えたか」だけでなく、「どこで迷ったか」「発言と行動が一致していたか」を観察メモに残すことで、次の改善につながる具体的な気づきが得られます。
成果物と評価指標: 改善ポイントリストと次の仮説が成果物です。事実ベースのや発話、詰まったポイント、感情の変化などを記録し、単なるメモではなく検証可能な根拠を残しておくことが重要です。
事例: ペンニットー株式会社のWebフォーム問い合わせ対応効率化支援では、LLMを活用した問い合わせ自動分類システムを構築し、3〜6ヶ月の試験運用を通じて精度を継続的に検証・改善しました。「AIの判断が人間の判断と一致しているか」を繰り返し確認しながら仮説を更新するプロセスは、テストフェーズの反復構造そのものです。試験運用の結果、人間と同等の精度を達成し、それまで見落とされていた顧客からの本物の問い合わせも拾えるようになった上で、本運用への移行を判断しています。
よくある勘違い: 「テストは開発終盤にやるもの」 デザイン思考では早期・反復のテストが前提です。荒削りなプロトタイプでも、ユーザーの反応から学べることは多くあります。
まとめ
デザイン思考の5プロセスは、テストの結果を持ち帰って再び共感フェーズに戻るループ構造です。

5プロセスを繰り返す中で、ユーザー理解の解像度は少しずつ高まっていきます。「型」として習得し、研修やWS設計・評価指標まで含めて整備することが、実務への定着につながります。