UI設計におけるペルソナ活用法|情報設計と優先順位の決め方
目次
「ペルソナは作ったけれど、結局デザイナーの感覚やトレンドでUIを決めてしまっている」
「このボタンをどこに置くか、社内で好みの議論が続いて終わらない」
UIデザインの現場で、こういった悩みに直面することは少なくありません。
ペルソナは本来、「誰のために、何を、どのような優先順位で届けるか」というUI要件への変換装置として機能すべきものです。そこには少しだけコツが必要です。
今回は、私たちデスケルが普段のプロジェクトで行っている、ペルソナの特性を具体的な画面設計(UI)や情報設計(IA)に落とし込むための「翻訳」プロセスの一例をご紹介します。
ペルソナとUIの間にある「翻訳」のプロセス
「ペルソナの年齢や趣味といった情報を、どうやってボタンの大きさやメニュー構成に反映させるか」
これは、私たちデザイナーがプロジェクトを進める中でも神経を使い、議論を重ねるテーマの一つです。
ペルソナを作っていきなり画面デザイン(表層)に入ろうとすると、論理の飛躍が起こることもあります。それを防ぐために、ペルソナの情報とUIの間には論理的な 「翻訳」 のステップが必要なのです。
私たちは、主に以下のような4つのステップで思考を整理しています。

この流れを意識するだけで、「なぜそのデザインなのか」をチーム全員が納得して進められるようになります。
ペルソナから「情報設計」へ落とし込む
まずは、ペルソナがゴールにたどり着くまでの「文脈」をUIに落とし込んでいきます。
多くの現場では「機能一覧」から画面を作ろうとしがちですが、ペルソナが求めているのは機能そのものではなく、機能を使った先にある「体験」です。
「不安」を「安心」に変えるUI設計
たとえば、ある投資アプリのUIを設計するシーンを想像してみてください。
もし、そのプロジェクトのペルソナが「慎重で不安を感じやすい」という特性を持っていたらどうでしょうか。 開発側としては「早く登録してほしい」一心で、画面の中央に「口座開設」という大きなボタンを配置したくなるかもしれません。しかし、慎重なペルソナにとって、いきなり決断を迫るUIは心理的ハードルが高すぎます。「何か裏があるのではないか?」と不安になり、そっと画面を閉じてしまうかもしれません。
こうしたケースでは、私たちはペルソナの心理を以下のように翻訳して設計し直します。
- タスク分析: ペルソナは登録ボタンを押す前に、「損をしないか確認したい」はず。
- 情報優先度変更: 「登録ボタン」の優先度を下げ、「シミュレーション機能」や「利用者の声」を先に目に入る位置へ。
- ナビ設計: 登録フローの各画面に「あと何分で終わるか」を示すプログレスバーを設置。
「不安」という心理特性を、「安心材料を先に提示する」というUI要件へ変換する。これこそが、ペルソナをUIに落とし込むということです。
読み手の「言葉」に合わせる
もう一つ重要なのが、UI上の「言葉」の翻訳です。
作り手は「クエリ」や「セッション」などのシステム用語を使いがちですが、場面によってはユーザーにとって異物と捉えられかねません。
ここで鍵となるのが 「マイクロコピー」 です。 例えば、ボタンを「登録する」から「無料で始める」に変えたり、エラー時に単に「不備があります」と突き放さず解決策を添えたりする。こうした細部の言葉選びが、ペルソナの迷いを消します。
さらに、「そもそも文字で伝えるべきか?」という視点も必要です。
中冨記念くすり博物館様の事例では、幅広い層の訪問が見込まれるのでペルソナとしては子供を含みます。
そこで、難解な解説文を見せる代わりに、イラストを中心とした直感的なGUIへ情報を「翻訳」するようなUIを制作しました。これによって世代を問わず、能動的に学べる体験に結びつけています。
言葉を磨くか、あるいは言葉以外の手段を選ぶか。どちらもペルソナに正しく情報を届けるための重要な工夫です。
参考事例:
公益財団法人中冨記念財団 中冨記念くすり博物館 様
リニューアルオープンした博物館の展示コンテンツのGUI・グラフィックの制作
優先順位を決めるための「捨てる勇気」
UI設計の中盤で必ず直面するのが、「あれもこれも載せたい」という優先順位の問題です。
関係者の要望をすべて聞き入れると、何が言いたいのかわからない「どのボタンを押せばいいかわからない多機能リモコン」のような画面になってしまいます。
ここで役立つのが、ペルソナを基準にした 「意思決定のルール化」 です。
「価値」を軸にしたマトリクス
優先順位に迷った時、私たちはホワイトボードを使ってマトリクス図を書くことがあります。
ポイントは、縦軸に 「ペルソナにとっての価値」 を置くことです。
たとえば、あるBtoBサービスのサイト改善プロジェクトを想像してみてください。 そこでは、「私たちの開発への想いや情熱を伝えたい」という社内の想いと、「上司を説得するための実績データが欲しい」という導入担当者(ペルソナ)のニーズが競合していました。
そこで、「ペルソナが稟議を通すために、一番に見たいものは何か?」という問いをチームに投げかけます。その結果、
- 優先度 高(ファーストビュー・ページ上部): キャッチコピー、サービスアイキャッチ、費用の目安、 導入事例、セキュリティの安全性
- 優先度 中〜低(ページ下部): 開発ビジョン、代表メッセージ
という判断を下し、事例と数字を最優先で見せる構成にしました。 これはビジョンを軽視するわけではありません。「信頼できる実績(ペルソナの価値)」を先に見せることで、結果として「ビジョン」も読んでもらえる土台を作る。そういった 情報の優先順位 を、ペルソナを軸に整理するのです。

ビジネスの成果(KPI)とつなげる
「ユーザーに優しいUI」と「ビジネス成果が出るUI」は、決して対立するものではありません。
例えば、「解約率を下げたい」というKPIがある場合。
ペルソナ分析で「使い方がわからず放置してしまう」ことが原因だとわかれば、ダッシュボードの機能をあえて減らし、チュートリアルへの動線を一番目立つ場所に固定する、といった施策が打てます。
ペルソナの 「困りごと」を解消する ことが、結果としてビジネスの数字(KPI)に跳ね返ってくる。その接点を探すのが、私たちUIデザイナーの腕の見せ所だと思っています。
「誰でも使える」がブランドの信頼になる
「ペルソナに合わせて文字を大きくしたり、ルールで縛ったりすると、ブランドの世界観が崩れるのではないか?」
そう心配されることもありますが、見た目のかっこよさだけがブランドではありません。 もちろん表現によって支えられる世界観もありますが、ペルソナにとっての信頼は、「いつでも、自分でも、迷わず使える」 という体験の積み重ねから生まれます。
これをコントロールできると誠実で信用できるという感覚を与えるブランディングができます。
そこで重要になるのが、身体的な使いやすさを保証する「アクセシビリティ」と、操作の一貫性を保つ「デザインシステム」です。この2つはペルソナとの約束を守るためのガイドになります。
ガイドラインを「ペルソナの視力」として使う
Webアクセシビリティの国際規格である WCAG(Web Content Accessibility Guidelines) は、難しいルールの羅列に見えるかもしれませんが、実は「ペルソナの身体的特徴」を理解するための強力なヒント集です。
例えば、高齢者がペルソナのアプリで、ブランドカラーが「淡いパステルピンク」だった場合。
おしゃれですが、視力が低下している方にとっては「文字が読めない」状態かもしれません。これは、ユーザーに対して「あなたはこのサービスを使う対象ではありません」と言っているのと同じです。
私たちは、ペルソナの期待に沿ってコントラスト比を調整したり、色だけでなく「形」でボタンを識別できるようにしたりと、様々な工夫を凝らします。
こういった制約を考慮することは、より多くのユーザーへ豊かなサービス体験を届けられるチャンスでもあるということです。
デザインシステム活用
ペルソナごとのUI要件を都度考えていると、ページが増えるごとに一貫性がなくなりがちです。これを防ぐために「デザインシステム」を活用します。
私たちが支援した株式会社リコー様の「RICOH Chatbot Service」では、機能拡張が続くSaaSプロダクトにおいて、デザインシステムの構築と運用を行いました。
「業務効率化を目指す担当者」というペルソナが、どの画面でも迷わず操作できるように、ボタンの配置ルールやフィードバックの表現を統一。これにより、機能が増え続けても「いつもの使い勝手」という安心感(ブランド一貫性)を保つことができています。
参考事例:
株式会社リコー 様
企業の問い合わせ対応をサポートする自動応答サービスのUI/UXデザイン支援
作って終わりではなく、育てていく
どれほど綿密にペルソナ分析をしても、リリース直後のUIが100点満点であることは稀です。
重要なのは、作った後の検証と改善のサイクルを回すことです。
デスケルメソッドカードから手法を引用すると、「IMPACT & FEASIBILITY(発想評価)」 が役に立つかもしれません。
検証で得られた課題に対して、「どの施策が最もペルソナに響き、かつ今の体制で実現可能か?」をチームで議論し、次のアクションを決定する。
「じっくり読みたいはず」と思って作ったUIが、ヒートマップを見たら全然読まれていなかった、なんてこともよくあります。そんな時は、素直に「直感的に選びたい」というペルソナ像に修正し、写真中心のUIに変えてみる。
そうやって、ペルソナとUIを行ったり来たりしながら、少しずつ正解に近づけていくプロセスこそが大切だと考えています。
「デスケルメソッドカード」
デザインプロセスを共有するために生まれたメソッドカード。「デザインおばけ」がメソッドを言葉と絵で分かりやすく解説する、デスケルオリジナルのツール。
まとめ
ペルソナをUI設計に活用することは、デザイナーの感性を縛るものではなく、「なぜそのデザインにするのか」という根拠を強固にするための手法 です。
- 翻訳する: ペルソナの心理を「機能」ではなく「体験の流れ」に変換する。
- 捨てる: ペルソナにとって価値の低い情報は、勇気を持って優先度を下げる。
- 育てる: リリース後も検証を繰り返し、UIを磨き込んでいく。
もし、現在開発中の画面について「このボタン配置の根拠は何だっけ?」と迷うことがあれば、ぜひ一度チームで「ペルソナ」に立ち返ってみてください。
私たちデスケルでは、こうしたプロセスをワークショップ形式でご支援したり、プロジェクトに伴走しながら一緒にUIを作り上げたりしています。
「社内の意見がまとまらない」「ペルソナをどう活かせばいいかわからない」といったお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事では、UI設計にペルソナを活用する方法を解説しました。「そもそもペルソナに対する理解が怪しいかもしれない」と感じた方は、ペルソナ全体に関する解説記事「ペルソナとは何か?ブランディングに活かす顧客理解の基本知識」をご参照ください。
また、ペルソナの作成方法について改めて学びたい方は「ペルソナシートの作り方と活用方法|チームの「合意」をつくる実践テンプレート」がおすすめです。